仁義(じんぎ)を切る

任侠(にんきょう)、テキヤ、香具師(やし、こうぐし、かうぐし)、博徒(ばくと)渡世人(とせいにん)(ばくち打ち)などが初対面の際に交わす挨拶の形式を表現する言葉。事をなすにあたって先任者・関係先などに挨拶することや事情を説明しておくこと、事前に連絡を入れておくことも指す。政治の世界においては、あいさつや説明責任の意味あいとなることもある。

口上(こうじょう)(よど)淀みなく歯切れの良い口調であるか、気の利いた台詞(せりふ)や言い回しであるかで、当人の力量が判断される儀式ともなっている。

例:旅人

「早速御控(おひか)えあってありがとうござんす。陰ながら親分さんで御免なさんせ。姉上さんで御免なさんせ。折合いましたる上々様(うえうえさま)御免なさんせ。斯様(かよう)土足裾取(どそくすそと)りまして御挨拶、失礼さんでござんすが御免なさんせ。向いましたる上さんと今回初めての御目通(おめどおり)でござんす。自分には何地住居某一家何誰若い者何と発し、御賢察(ごけんさつ)(とおり)、しがなき者にござんす。後日に御見知り置かれ行末万端御熟懇(ゆくすえばんたんごじっこん)に願います」

例:寅さんの口上

「遅ればせの仁義、失礼さんでござんす。わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又(かつしかしばまた)です。渡世上故(とせいじょうゆえ)あって、親、一家持ちません。カケダシの身もちまして姓名の儀、一々(いちいち)高声(こわだか)に発します仁義失礼さんです。帝釈天(たいしゃくてん)産湯(うぶゆ)を使い、姓は車、名は寅次郎。人呼んでフーテンの寅と発します。

皆様ともどもネオン、ジャンズ(ジャズ)高鳴る大東京に仮の住居まかりあります。不思議な縁持ちまして、たったひとりの妹のために粉骨砕身(ふんこつさいしん)、売に励もうと思っております。西に行きましても東に行きましても、とかく土地土地のおあにいさん、おあねえさんに御厄介(ごやっかい)かけがちなる若造(わかぞう)でござんす。

以後見苦しき面体(めんてい)お見知りおかれまして、恐惶万端(きょうこうばんたん)引き立って、よろしくお頼み申します」

仁義を切る【字幕付き】昭和残侠伝 池部良